【裏渋谷】渋谷のお寺に亀がいる。動画に入りきらなかった、もうひとつの渋谷

石仏めぐり
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先日、渋谷を歩いた動画を公開しました。「表渋谷」のハチ公、スクランブル交差点、センター街、道玄坂、公園通り、宮益坂の賑やかなところから、「裏渋谷」(勝手に名付けました)の渋谷川、消えた東横線、宇田川地蔵など静かなところを散歩してきました、それでも入りきらなかった場所があります。

カットした理由は、動画の流れと少し違うかな、ここ解説すると長くなりすぎるかな。でも、カットした場所にも、それぞれ小さな物語がありました。今回はその「裏渋谷」を、写真とともにご紹介していきます。

1. 亀の背中に、読めない石碑(東福寺)

金王八幡宮の隣、渋谷山東福寺。本堂の近くに、妙なものがあります。

石碑が、亀の背中に乗っているのです。

これは「亀趺(きふ)」という中国伝来の様式で、正確には亀ではなく、龍の子・贔屓(ひき)が碑を背負っています。重いものを背負うのが好きな伝説の生き物です。身分の高い人の顕彰碑などに使われる、格式ある建て方。そこらのお寺に普通にあるものではありません。

碑面の文字は、風化してほとんど読めません。かろうじて拾えるのは、崩し字のような刻みと、下のほうに並ぶ人名らしき列だけ。

正体を調べてみました。東福寺の寺史には、文化年間(1804〜1817)に「太白堂門人山奴社中」が芭蕉句碑を境内に建立した、という記録があります。太白堂というのは、芭蕉の流れを汲む俳諧の宗匠の名跡。山奴社中は、その門人たちの俳句グループです。

つまりこの亀の碑、江戸の俳句好きたちが建てた芭蕉の句碑——である可能性が高そうです。崩し字に見えた刻みは句の本文、人名の列は社中メンバーの連名、と考えると辻褄が合います。

もっとも、碑面が読めない以上、断定はできません。いつか斜めから光の当たる時間帯に再訪して、拓本のように撮り直してみたいと思っています。もしこの碑の正体をご存知の方がいらしたら、ぜひ教えてください。

亀は今日も、読めなくなった句を背負ったまま、山門の脇に座っています。誰かが賽銭を置いていました。

2. 渋谷が農村だったころの稲荷(金王八幡宮・玉造稲荷神社)

金王八幡宮の境内、神楽殿の脇に、朱の鳥居と幟の連なる小さなお社があります。玉造稲荷神社。創建は江戸中期と伝わります。

面白いのはその背景で、神社の由緒によると、玉造稲荷が創建された江戸中期から明治のころまで、渋谷は農家が多く、稲作が行われ、茶畑が広がっていたそうです。

いまのスクランブル交差点から徒歩数分の場所に、田んぼと茶畑。お稲荷さんは五穀豊穣の神様ですから、この小さなお社は「農村・渋谷」の生き証人ということになります。

動画では豊栄稲荷神社(こちらも必見です)とビジュアルが重なるため泣く泣くカットしましたが、渋谷の地面がアスファルトではなかった時代を想像させてくれる、いい場所です。

3. 女子学園からやってきた狛犬(金王八幡宮・御嶽神社)

玉造稲荷の隣には御嶽神社。武州御嶽神社(青梅の武蔵御嶽神社)の分社で、開運・商売繁昌の神様です。

ここで注目したいのは、社前の狛犬。神社の由緒によれば、この狛犬一対と西参道の鳥居は、かつて実践女子学園の校内にあった「香雪神社」から移設されたものだそうです。

学校の中に神社があり、その神社が役目を終えて、狛犬だけが近くの八幡様に引き取られる——動画をご覧になった方はお気づきかもしれませんが、渋谷はこういう「引っ越してきたもの」だらけの街です。庚申塔も、お地蔵様も、狛犬も。街が変わるたび、居場所を失ったものたちが、神社とお寺に集まってくる。

御嶽神社の祭神には日本武尊(大鳥大神)も含まれます。武門の神様がここに祀られたのは、この地が渋谷氏の居城だったからと考えられているそうです。

4. おまけ:空襲を免れた寺

最後にひとつ、調べていて驚いた話を。

昭和20年の空襲で、渋谷区内の寺社はほとんどが壊滅状態になったそうです。ところが東福寺は無事でした。本堂は大正6年(1917)に建てられたものが、関東大震災も空襲もくぐり抜けて、いまも建っています。

動画に出てきた宇田川地蔵の古い一体や庚申塔には「戦災の傷」が残っています。あれは別の場所で被災してから、この寺に移ってきたものたち。つまり東福寺は、自らは焼けずに残り、焼かれたものたちを受け入れてきたお寺、ということになります。

渋谷でいちばん古いお寺は、渋谷の記憶の避難所でもありました。

場所

  • 金王八幡宮(玉造稲荷神社・御嶽神社):渋谷区渋谷3-5-12/渋谷駅から徒歩5分ほど
  • 渋谷山東福寺:渋谷区渋谷3-5-8(金王八幡宮のすぐ隣)

渋谷駅から10分歩くだけで、こういう場所に着きます。動画とあわせて、散歩の参考になれば嬉しいです。

この記事の散歩は、動画でも公開しています。文章では伝えきれない街の音や、路地の空気は、ぜひ動画でどうぞ。

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